
事業責任者・林 知史
一人ひとりの可能性と、真剣に向き合う
就労継続支援B型事業所を運営しながら、日本初となる「就労支援の枠組みでのテレビ放送アニメ制作」を実現
したShakeHands メディアプロダクツ。
2026 年4 月には、法務省近畿矯正管区より再犯防止啓発
アニメーションの制作を手がけ、話題を呼んでいます。
障害者の就労支援が社会的に注目される今、事業責任者である林 知史氏に、
その理念と現場での取り組みについて話を聞きました。
就労継続支援B型を取り巻く環境は、大きな転換期を迎えています。
絆グループによる不正行為の報道など、業界全体が社会から注目を集める中、
現場のリーダーとして、今の状況をどう受け止めていますか?
今、この業界は節目を迎えていると感じます。ただ、僕はこれを前向きなチャンスだと捉えているんです。
多様性という考え方が社会に根付き始め、障害者の方々が活躍できる場が少しずつ広がってきました。ここ十数年、多くの支援者や当事者、ご家族が積み上げてきた信頼の土台があります。その上に、僕たちは新しい形を作っていきたい。
社会からの注目が集まっているということは、本気で取り組む事業所がきちんと評価される時代になってきたとも言えます。僕たちとしては、この流れを受け止めて、目の前の一人ひとりと丁寧に向き合い続けるだけです。
業界内ではe スポーツの導入や、水やりといった軽作業の位置づけなど、
活動内容について様々な議論がなされています。
ShakeHands メディアプロダクツが大切にしている考え方を教えてください。
一番大切にしているのは「プロセスの質」です。
e スポーツであれ、水やりのような作業であれ、どんな活動でも、問われるのは「その活動が何のために存在するのか」という一点に尽きます。この問いに明確に答えられるかどうかで、支援の質は決まると思っています。
当事者の方々は、実はとても敏感です。自分の仕事に意味があるかどうかを、言葉にはしなくても感じ取っている。だからこそ、僕たちは一つひとつの活動に、きちんとした意味を持たせたいんです。
具体的には、どのような設計をされているのですか?
「この人は三ヶ月後、半年後、一年後にどうなっているか」という視点を常に持つようにしています。
日々の作業を通じて、本人のマインドがどうポジティブに変化していくか。自分自身の価値をどう見出していくか。その過程を支えることが、支援の核心だと考えています。何をやるかよりも、どう設計するか。支援者側に哲学と戦略がなければ、どんな活動も形だけになってしまいます。

昨年、就労支援の枠組みで日本初となる放送アニメ制 作を実現されました。
率直な感想を聞かせてください。
大きな挑戦でしたし、実現できたことは素直に嬉しいです。構想段階では「難しいのでは」という声も多くいただきました。それでも、障害者の方々の中に眠る可能性を信じて進めてきました。
ただ、「日本初」という肩書きそのものには、あまりこだわっていないんです。それはあくまで通過点。本当に大事なのは、アニメ制作の過程で何が生まれたかということです。
制作現場では何が生まれたのでしょうか?
プロの現場特有の緊張感、締め切りと向き合う経験、品質へのこだわり、仲間との連携。そういう本物の環境に身を置いたとき、人は自分の中にある力に気づきます。
完成した映像が全国に放送され、エンドロールに自分の名前が載り、ご家族や友人から「観たよ」と連絡が入る。その時の表情は、本当に印象的でした。それまで控えめだった方が、少し胸を張るようになる。その小さな変化こそが、僕たちが作りたかったものです。
アニメ制作はあくまで一つの点。そこから、彼らが社会の中で働いていく線をどう描いていくか。そちらのほうがずっと重要です。
実際にアニメ制作に関わった方々には、どのような変化が見られましたか?
個人情報に配慮しながらお話しすると、当初は数分集中することが難しかった方が、半年後には自ら「このシーンはこうした方がいい」と提案してくれるようになりました。人と目を合わせるのが苦手だった方が、試写会の場で自然に「ありがとう」と口にする瞬間もありました。
こういう変化は、工賃や就職率といった数字では測りきれない部分です。でも、人が働くうえで一番大事なのは「自分はここにいていい」「自分には役割がある」という実感だと思っています。そこを土台から作っていく仕事だと、日々感じています。

2026 年4 月23 日には、法務省近畿矯正管区から の依頼を受けて制作された
再犯防止啓発アニメーション「カレンダーの続きを|再出発のその先へ」が公開されました。
このプロジェクトについて聞かせてください。
本当にありがたいお話でした。ご依頼をいただいたとき、光栄に思うと同時に、強い共感と感銘を受けたんです。
今の刑務所は、かつての「罰する場所」から、受刑者の立ち直りを支える「福祉的な場所」へと大きく変わり始めています。社会的に復帰していく方々を支援するという取り組みは、僕たちが日々 ShakeHands メディアプロダクツで向き合っているテーマと、根っこのところで深く重なり合っていました。だからこそ、このお仕事は単なる受注案件ではなく、僕たち自身の原点を問い直すような時間にもなりました。
このアニメーションでは、刑務所を描く際によく使われがちな鉄格子や有刺鉄線といった表現を、あえて一切用いない選択をしました。代わりに、刑務官との面談の場面、地域の方々とのあたたかな交流、そして主人公が少しずつ社会に馴染んでいく姿を、まっすぐに描いています。
制作中、メンバーは何度も手を止める瞬間がありました。主人公の「もう一度やり直したい」という気持ちが、僕たちメンバー一人ひとりの想いと、静かに重なっていったからです。一歩を踏み出す怖さと、そこに差し出される手のあたたかさ。その両方を、丁寧に映像に落とし込んでいきました。
こうした意義深いプロジェクトを任せていただいたことに、心から感謝しています。納品させていただけたことそのものが、僕たちクリエイターチームにとって大きな財産になりました。
就労継続支援B型の支援者として、特に意識していることはありますか?
「誠実さ」と「創造性」、この二つです。
誠実さは、当たり前のことを当たり前にやり続ける姿勢。一人ひとりとの約束を丁寧に守り、制度に対しても真っ直ぐであり続ける。不正行為とは真逆の、地道な日々の積み重ねこそが、信頼を生むと信じています。
創造性は、前例がないことに挑戦する姿勢です。アニメ制作も、誰もやっていなかったからこそ意味がありました。障害者の方々には、まだ社会に見出されていない才能がたくさんある。それを引き出す「器」を作ることが、支援者の役割だと思っています。
この二つが揃ったとき、福祉は「守る」だけでなく「共に挑む」ものに変わると信じています。
今後の展望を聞かせてください。
時代の転換期にある今こそ、より誠実に、より創造的に動き続けたいと考えています。
障害者の方々の可能性を一つでも多く形にしていく。そして、法務省近畿矯正管区のお仕事のように、社会的に再出発していく方々を支える取り組みにも、クリエイティブの力で関わっていきたい。人が再び立ち上がる瞬間に伴走することが、僕たちの原点だと
改めて感じています。
派手なニュースで世間を賑わせることよりも、一人の方が自分の人生を肯定し、社会の中で居場所を掴んでいくプロセスに、何年でも伴走したい。それが僕たちの考える本当の「クリエイティブ」です。
作品を作る。物語を作る。そして何より、一人ひとりの未来を一緒に作る。その仕事を、これからも続けていきます。

